純水を作るイオン交換樹脂の仕組み・基本原理とその役割

現代社会において、純水は様々な分野で欠かせない存在となっています。半導体産業、医薬品製造、食品産業など、高度な技術を必要とする現場では、不純物を極限まで取り除いた純水が求められています。
その純水製造の中核を担うのが、イオン交換樹脂です。今回は、純水の基本概念からイオン交換樹脂の基礎的な知識について、わかりやすく解説します。
これから純水生成システムを導入または改善しようとされている方は、ぜひ参考にしてください。
純水とは?
純水とは、水中の不純物を極限まで取り除いた水のことです。不純物には、カルシウムやマグネシウムなどのミネラル、ナトリウムや塩素などのイオン、有機物、微生物などが含まれます。
純水は、これらの不純物を除去することで、様々な産業分野で利用できるようになります。
純水の種類
純水と一口にいっても、その使用目的に応じていくつかの種類があります。主なものは以下の通りです。
【一般純水】
イオン交換樹脂を用いて水中の陽イオンおよび陰イオンを除去した水です。工場や研究施設などで幅広く使用され、特にイオンの影響を受けやすい工程に適しています。
【超純水】
超純水は、DI水(脱イオン水)よりさらに不純物を取り除いた、より高純度の水のことです。DI水はイオン交換樹脂を使って水中のイオン(カルシウム、ナトリウム、塩化物など)をほぼ完全に除去した水ですが、まだ微量の有機物や微生物、溶存ガスなどが含まれている場合があります。
追加処理により、ほぼ完全に不純物が取り除かれ、極限まで純度を高めた水が「超純水」です。半導体製造やバイオテクノロジー、精密計測など、非常に高い水質が求められる現場で利用されます。
【蒸留水】
蒸留工程によって作られる水で、加熱により蒸発した水蒸気を冷却することでほぼ純粋な水が得られます。イオンはもちろん、微量の有機物も大幅に除去されるため、医薬関係、実験室などでよく使われます。ただし、完全なイオン除去が目的の場合は、脱イオン法の方が適していることもあります。
純水の用途例
純水は、このような用途があります。
1.電子部品洗浄および半導体製造
電子部品や半導体の製造工程では、微細な回路パターンの形成や微小な粒子による障害が問題となります。純水は、部品の洗浄工程で、表面に付着した塵や微粒子、加工時に付着する金属イオンなどを取り除くために用いられます。特に超純水は、極めて低い電気伝導率と高い透明度を持つため、半導体の露光工程やエッチング、リンス工程で利用され、品質の向上に大きく貢献します。
2.実験用・研究用
化学実験や生物学的検証、物理実験など、研究現場では実験結果に影響を与えうる外来成分を徹底的に排除する必要があります。純水は、試薬調製や溶液の希釈、クロマトグラフィーなど、反応条件を厳格に管理する実験に不可欠です。イオン交換樹脂を用いた脱イオン水は、外来イオンが原因で引き起こされる予期せぬ副反応や測定誤差を防ぐ役割を果たします。
3.医薬品製造
医薬品の製造プロセスにおいては、最終製品の品質と安全性を確保するために、製造工程で使用される水の純度が厳しく管理されています。水は注射液、内服薬の製造工程や原材料としても利用されるため、微生物や有害な不純物が一切含まれていないことが必須となります。医薬品製造用の純水は、通常、USPやEPに準拠した規格で作られますので、定期的な品質チェックや設備のメンテナンスが必要です。
純水を作る方法
一般的な純水製造プロセスの流れをステップごとに説明します。
1.前処理
原水(水道水や工業用水など)には、様々な不純物が含まれています。これらの不純物を効率的に除去するために、前処理を行います。
・凝集沈殿やろ過:大きな砂や浮遊物、微粒子を物理的に取り除きます。沈殿槽や砂ろ過装置、あるいはカートリッジフィルターなどが使われます。
・活性炭ろ過:活性炭フィルターを通すことで、有機物や塩素といった水質に影響を与える物質も除去します。これにより、後続工程で使われるイオン交換樹脂や膜がダメージを受けにくくなります。
2.純水製造
前処理された水から、さらに不純物を除去し、純水を作ります。
・逆浸透膜(RO膜)法:水に圧力をかけ、半透膜であるRO膜を通して純水を取り出す方法です。RO膜は、水分子以外の不純物をほとんど通さないため、純度の高い水が得られます。
・イオン交換樹脂法:水中のイオンを、イオン交換樹脂に吸着させて除去する方法です。陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂を組み合わせることで、様々なイオンを除去できます。
イオン交換樹脂の役割と基礎知識
イオン交換樹脂は、水中のイオンを別のイオンと交換する能力を持つ小さな粒状の物質です。この性質を利用して、水中の不純物イオンを取り除き、純水を作ることができます。
イオン交換樹脂の構造と仕組み
イオン交換樹脂とは、水中のイオンを別のイオンと交換する能力を持つ小さな粒状の物質です。その表面や内部に多数の交換可能なイオンが結合している状態です。
まるで、磁石が砂鉄を引き付けるように、イオン交換樹脂は特定のイオンを引き付け、代わりに別のイオンを放出します。この性質を利用して、水の浄化や物質の分離など、様々な用途で活用されています。
水が樹脂を通過すると、樹脂の官能基と水中の不純物イオンとの間でイオン交換反応が起こり、不要なイオンが樹脂に捕捉され、代わりに樹脂に予め結合していたイオン(例:H⁺やOH⁻)が溶出します。この過程を経て、ほぼイオンが存在しない状態、すなわち純水が得られます。
イオン交換反応のメカニズム
イオン交換樹脂による純水精製は、以下の2つのステップで進行します。
1.イオン交換
水がイオン交換樹脂層を通過する際に、水中の不純物イオンがイオン交換樹脂のイオン交換基と結合します。この時、イオン交換基に結合していた別のイオンが水中に放出されます。
2.再生
イオン交換基に不純物イオンが結合した状態では、イオン交換能力が低下します。そこで、酸やアルカリなどの再生液を樹脂層に流し、不純物イオンを洗い流します。これにより、イオン交換基は元の状態に戻り、再びイオン交換能力を発揮できるようになります。
陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂の違い
イオン交換樹脂には、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂の2種類があります。
カチオン交換樹脂(陽イオン交換樹脂)水の中に含まれる「陽イオン(プラスの電荷を持つイオン)」を取り除くための特殊な樹脂です。この樹脂にはマイナスの電荷を持つ部分(官能基)があり、水に溶けている陽イオン(例えば、カルシウム Ca²⁺ や ナトリウム Na⁺)と結びつくことで、それらを水から取り除くことができます。
アニオン交換樹脂(陰イオン交換樹脂)は水の中に含まれる「陰イオン」(マイナスの電荷を持つイオン)を取り除くために使われる特殊な樹脂です。この樹脂の表面には、プラスの電荷を持つ部分(官能基)があり、水に溶けている陰イオン(例:塩化物イオン Cl⁻、硫酸イオン SO₄²⁻、炭酸イオン CO₃²⁻ など)と交換することで、水をきれいにします。
つまり、正反対の性質を持つイオン交換樹脂の働きによって、水中の不要な陽イオン・陰イオンが除去され、結果としてイオンがほとんど存在しない「純水」が得られます。
純水製造では、通常、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂を組み合わせて使用し、水中の様々なイオンを除去します。
イオン交換樹脂の再生方法
イオン交換樹脂は、繰り返し使用するために、定期的に再生する必要があります。再生方法には、以下のものがあります。
・酸再生:陽イオン交換樹脂の再生には、塩酸や硫酸などの酸が用いられます。
・アルカリ再生:陰イオン交換樹脂の再生には、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリが用いられます。
・塩水再生:軟水器などでは、塩化ナトリウム(食塩)水が再生液として用いられます。
再生時には、適切な濃度の再生液を適切な流量で流すことが重要です。また、再生後の樹脂は、十分に洗浄し、残留した再生液を取り除く必要があります。
スイレイのイオン交換処理システム
スイレイでも、イオン交換処理システムを提供しています。カチオン樹脂、アニオン樹脂の2種類を使用、場合によってはこの2種類をミックスし、用途に合わせた適切な水処理システムを設計いたします。
純水製造装置としてはもちろんのこと、工場排水処理装置、表面処理最終水洗水のリサイクル設備などでもお使いいただいております。
塔の本数や種類は用途に合わせて調整可能ですので、イオン交換処理システムについてのご相談があれば、ぜひご要望などをお聞かせください。

【イオン交換処理装置】

【イオン交換処理装置 委託再生式のフロー】
まとめ
純水は、電子部品洗浄、実験用、医薬品製造など、さまざまな分野で活用されています。その純水を作る過程で中核をなすのがイオン交換樹脂です。
砂ろ過や沈殿、活性炭ろ過などで大きな粒子や浮遊物、有機物、塩素などを除去したあと、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂を組み合わせたイオン交換装置で微量のイオンを取り除き、極めて純度の高い水が得られます。
スイレイでも、用途に合わせて調整可能なイオン交換処理システムを提供しています。純水製造装置としてだけでなく、工場排水処理装置としてもお使いいただけるシステムです。現状のシステムで何かお困りごとがあれば、ぜひ私たちスイレイにご相談ください。