水処理における「薬品」の役割と重要性
水処理は、生活用水や工業用水の安全性を確保し、環境保護や水処理が必要な企業の持続可能な経営を支える重要なプロセスです。水処理の中でも、化学薬品の使用は非常に一般的であり、さまざまな種類の薬品が水質改善や浄化、汚泥処理、除菌に利用されています。ここでは、代表的な薬品である「苛性ソーダ」「硫酸」「消石灰」について詳しく解説し、それぞれの使用目的や実際の水処理プロセスにおける役割を紹介します。
水処理における薬品「苛性ソーダ」について
苛性ソーダ(NaOH)、別名「水酸化ナトリウム」は、強アルカリ性を持つ無色透明の溶液です。苛性ソーダは水処理において、特にpH調整や水のアルカリ化に使用されます。
1. 苛性ソーダの役割と効果
水処理の中で苛性ソーダは、水の酸性度を調整するために使用されるケースが多いです。工業廃水などは酸性に偏る場合が多く、このまま排水すると環境に悪影響を及ぼす恐れがあります。苛性ソーダを加えることでpHを調整し、中性や弱アルカリ性にすることで排水基準を満たすようにします。
2. 苛性ソーダ使用に関するよくある相談と対策
株式会社スイレイでは、苛性ソーダに関しては、配管の結晶化や冬場の凍結についての相談をよく受けます。凍結の可能性が高い地域の設備に関しては、苛性ソーダを25%濃度で使用することで凍結しにくくなります。例えば、24%の濃度であれば凝固点が-12℃なので、余程の寒さや風に吹きさらされる環境でない限り、凍結の心配は少ないとされています。
しかし、凍結よりも厄介なのが結晶化です。濃度が30%以上になると結晶化が始まりやすく、0度以下で配管内が詰まると、たとえ温めても復旧が難しい場合があります。このような事態が発生した場合は、すぐにホースなどを用いて仮設配管を組むしか方法がありません。特にフレーク状の苛性ソーダを溶解する際、30%以上の濃度で調製してしまうと、低温で結晶化してしまうことがあります。
これらの問題を防ぐためには、現場の環境に適した濃度で管理を徹底することが重要です。また、万が一凍結や結晶化が発生した際に備え、予備のポンプやホースを準備しておくことが望ましい対策といえます。
注意1:市販の可性ソーダは濃度25%と50%がありますが、夏場は50%、冬場は25%と使い分け、凍結防止のためのヒーターや保温等が必要となります。
注意2:希釈槽の攪拌は攪拌機による攪拌が必要となりますが、時間が長くなると空気中の炭酸ガスを吸着してしまいアルカリ度が低下するため、必要時間のみ攪拌します。
水処理における薬品「硫酸」について
硫酸(H2SO4)は、強力な酸性を持つ無色の液体で、水処理においては主にpHの調整や、特定の化学物質の溶解、沈殿の促進などに使用されます。
1. 硫酸の役割と効果
水処理では、アルカリ性に傾いた水のpHを中和するために、硫酸が使用されることがあります。例えば、水源から取水した水や工業排水のアルカリ性を調整する場合に利用されます。
2. 硫酸の使用と法規制
硫酸は水処理設備では主にpHを下げるために使用される薬剤であり、非常に重要な役割を果たしています。ほぼすべての排水処理設備に使用されているといっても過言ではありません。ただし、毒劇物取締法により濃硫酸は200kg以上の保管には届け出や資格が必要とされています。一方、希硫酸については医薬用外劇物指定であるため、資格は不要ですが、表示義務や保管責任者の選任が求められます。また、10%以下の濃度であれば、医薬用外劇物指定も解除されます。
さらに、消防法の観点からも硫酸の取り扱いには注意が必要です。濃度が60%以上の硫酸は消火活動阻害物質として指定されているため、届け出が必要となります。
3. 硫酸の希釈と使用方法
排水設備では希釈して10%前後で使用することが一般的です。場合によっては、60%の希硫酸で使用することもありますが、この濃度では細かなpHの調整が難しく、チャタリング(不安定な動作)の原因になることが多いため、希釈機構を設置して使用することが推奨されます。こうした設備を整えることで、効率的かつ安全にpH調整が可能となり、安定した水処理プロセスを実現できます。
注意1:排水処理設備で使用する場合、危険性や扱いやすい硫酸濃度70%を使用します。
水処理における薬品「消石灰」について
消石灰(Ca(OH)2)は、一般名「水酸化カルシウム」としても知られており、水に溶けるとアルカリ性を示す白い粉状の薬品です。水処理においては、主に硬度調整や沈殿促進剤として用いられていますが、苛性ソーダと同様にpHを上げるためにも使用されます。
2. 取扱上のデメリットと代替薬品の選択
しかし、消石灰には取扱が難しいという大きなデメリットがあり、この点に関する相談が多く寄せられます。消石灰は水に溶解するとスラリー状になるため、ポンプや配管が詰まりやすく、濃度も薄くする必要があるため、ポンプやタンク類も大容量のものが求められます。そのため、消石灰の使用が必須でない場合、メンテナンス性や関連コストを考慮すると、薬品コストが消石灰よりも高くても、苛性ソーダと塩化カルシウム溶液を代わりに用いることが望ましいと考えられます。
注意1:ローリー搬入される消石灰は、約30%の石灰乳と呼ばれるもので、静置すると沈降性があるため、常時低速攪拌が必要となります。
まとめ
水処理における薬品の使用は、適切な処理を行うための重要な要素であり、水質改善や設備の保護、環境保護にも大きく貢献しています。今回紹介した「苛性ソーダ」「硫酸」「消石灰」は、いずれもその特性を活かして異なる役割を果たしています。水処理を行う企業の担当者にとって、これらの薬品の特性を理解し、適切に利用することが、効率的で持続可能な水処理プロセスの実現につながるでしょう。