凝集沈殿の基礎〜その仕組みとプロセスについて
排水処理において、「凝集沈殿」は重要な役割を果たしています。凝集沈殿法では、重金属など排水中の微細な物質を凝集剤で結びつけ「フロック」と呼ばれる大きな塊に変え、それを沈殿や浮上させて水と分離する仕組みです。
凝集沈殿の原理やフロックが沈澱するプロセスに関する知識は、排水処理の初心者も理解しておくべきポイントです。この記事では、凝集沈殿の基礎知識から具体的な処理方法まで、初心者にもわかりやすく詳しく解説します。
凝集沈殿とは?
凝集沈殿は、排水処理における重要な工程で、水中の浮遊物質や溶解性の有機物、重金属などを効率的に除去する役割を果たしています。水中に微小な粒子が自然に沈殿せずに水中に分散しているときなど、直接的な沈殿だけでは不十分な場合に特に有効です。
排水処理における凝集沈殿の役割
凝集沈殿の基本的な役割は以下の通りです。
【浮遊物質の除去】
排水に含まれる微細な浮遊物質を凝集剤(例えばポリ塩化アルミニウムや硫酸鉄など)を加えて凝集させることで、大きなフロック(凝集体)を形成し、重力によって沈殿しやすくなります。これにより、排水の透明度が向上し、後続の処理段階が効率的に行われます。
【有機物や無機物の除去】
溶解した有機物や金属イオンも、凝集沈殿のプロセスによって捕捉されやすくなり、水質改善に貢献します。
【微生物や病原体の減少】
一部の微生物や病原体もフロックに取り込まれて沈殿するため、排水処理後の水質がさらに向上し、健康リスクも低減されます。
凝集沈殿の基本原理
水中に存在する微細な懸濁物質や溶解性物質は、そのままでは重力による自然沈降が困難です。
凝集沈殿法は、これらの物質に凝集剤を添加することで、より大きな塊(フロック)を形成させ、沈降分離を可能にする処理方法です。この技術は、浄水場での水道水製造から、工場排水の処理まで、幅広い分野で活用されています。
凝集とフロックの形成メカニズム
通常、水中の懸濁物質はマイナスの電荷を帯びており、互いに反発し合っています。だから、水中でうまく分散されているのです。
そこにプラスの電荷を持つ凝集剤を添加すると、電荷が中和されて結合が起こります。これによって、分散されていた物質が凝集状態になります。
凝集剤の種類とその作用
凝結反応を起こすための凝集剤は、大きく分けて2つの種類があります。
【無機凝集剤】
最も一般的な無機凝集剤には、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、塩化鉄などがあります。これらは比較的安価で扱いやすく、幅広いpH 範囲で使用可能です。特に PAC は、従来の硫酸バンドに比べて処理効果が高く、温度変化の影響も受けにくいという特徴があります。
【有機凝集剤】
高分子凝集剤とも呼ばれる有機凝集剤は、長い分子鎖を持つ高分子化合物です。カチオン、アニオン、ノニオンなどがあり、処理対象物質の性質に応じて選択します。特に、フロックの強度を高める効果があり、沈降性の向上に貢献します。
【凝集補助剤の役割】
珪藻土や活性シリカなどの凝集補助剤は、フロックの形成を促進し、その強度を高める働きがあります。特に水温が低い時期や、懸濁物質の濃度が低い場合に効果を発揮します。
フロック形成の仕組み
フロック形成は、主に以下の3段階で進行します。
1.電荷の中和 凝集剤として添加される硫酸アルミニウムや PAC などは、水中でプラスの電荷を持つイオンとなります。これが懸濁物質の負の電荷を中和し、粒子同士が接近できるようになります。
2.微小フロックの形成 電荷を中和された粒子は、水中での衝突により小さな塊(微小フロック)を形成し始めます。この段階では、強い撹拌により粒子同士の接触機会を増やすことが重要です。
3.フロックの成長 形成された微小フロックは、緩やかな撹拌により更に衝突を繰り返し、より大きなフロックへと成長していきます。この際、高分子凝集剤(凝集助剤)を添加すると、フロックの架橋効果により、より大きく強固なフロックの形成を促進できます。
フロックの沈殿または浮上
形成されたフロックは重くなるため、通常は沈殿しますが、場合によっては浮上させる方法もあります。こうして排水から汚れの粒子が分離され、水がきれいになります。
凝集沈殿の具体的な処理方法
フロック形成の仕組みがわかったところで、凝集沈殿の具体的な処理方法についても理解を深めていきましょう。
凝集剤の投入と攪拌
凝集沈殿の最初の工程は、凝集剤を投入して水中の微粒子を集めやすくすることです。
【凝集剤の投入】
廃水中に浮遊している微小な粒子(汚濁成分)を凝集させるため、適切な種類と量の凝集剤(例えば、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウムなど)を投入します。凝集剤の量は、廃水の汚れ具合やpHに応じて調整されます。
【攪拌(かくはん)】
凝集剤を全体に行き渡らせるために、まず強く攪拌します。これは粒子の表面に凝集剤が付着することで、電荷が中和され、粒子が互いに引き寄せ合う「凝集」が進むためです。次に、攪拌の速度を落としてゆっくりと混ぜ、凝集した小さな粒子がフロック(大きな塊)を形成しやすくします。
沈殿・浮上による固液分離
次のステップは、フロックを廃水から分離する固液分離工程です。
【沈殿分離】
生成されたフロックは比重が大きく、自然に沈みやすくなるため、沈殿槽に移されます。ここでフロックは底に沈殿し、上澄みには浄化された水がたまります。沈殿槽の形状や滞留時間が最適化されており、フロックが十分に沈む時間が確保されています。
【浮上分離】
一部の凝集沈殿プロセスでは、気泡を発生させてフロックを浮上させ、表面から回収する方法も用いられます。たとえば、気泡とフロックが結びつくことでフロックが浮上しやすくなり、上部からフロックを回収します。この方法は「浮上分離」とも呼ばれ、軽量のフロックや油分を含む廃水処理に特に効果的です。
凝集沈殿のメリット
凝集沈殿法の最大の利点は、幅広い種類の汚濁物質に対して効果を発揮できる点です。特に、水中の懸濁物質や溶解性物質、さらには重金属類まで、様々な物質を同時に除去できる汎用性の高さが特徴です。
また、比較的シンプルな設備構成で処理が可能であり、運転管理も他の処理方法と比べて容易です。処理時間も比較的短く、大量の排水を効率的に処理できることから、多くの産業分野で採用されています。
さらに、処理効果が安定しており、適切な運転管理を行えば高い除去率を継続的に維持できます。
凝集沈殿のデメリット
一方で、凝集沈殿法にも課題があります。最も大きな問題点は、処理過程で大量の汚泥が発生することです。この汚泥の処理・処分には多額のコストがかかり、環境負荷の観点からも課題となっています。
処理効果を最大限に引き出すためには、適切な薬品選定とその注入率の管理が不可欠であり、これらの最適条件は水質変動に応じて変化するため、継続的な監視と調整が必要です。
薬品費用も無視できない運転コストとなります。特に、処理水量が多い場合や、高度な処理が要求される場合には、薬品コストが大きな負担となることがあります。
また、pHや水温などの条件によって処理効果が変動するため、これらの影響を考慮した運転管理が必要となります。
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2.流量計、液面計の測定による原水の均一化
3.電動機の運転積算時間測定による交換周期の定量化
4.ろ材、膜、フィルターの積算処理量による交換周期の定量化
5.原水の電気伝導率を測定することにより、発生汚泥の積算化
薬品のコストが負担になっている、日々の運転管理や機器の点検業務が煩雑など、凝集沈殿作業に関してお悩みがあれば、ぜひ一度私たちにご相談ください。
まとめ
凝集沈殿法は、水中の微細な懸濁物質に凝集剤を添加して大きな塊(フロック)を形成させ、重力沈降によって固液分離を行う水処理技術のことです。
排水処理の基本でありながら、その効果を最大限に引き出すには、様々な要因を考慮した適切な運転管理が必要です。短時間で効果的に汚れを除去できる優れた排水処理法ですが、汚泥処理や条件調整の手間がかかる面もあります。
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