水処理設備のメンテナンスにおけるPH計とPH電極について
水処理設備は、私たちの生活や産業活動において不可欠な存在であり、各種の工場や事業所で水質の管理が求められています。そのため、日々のメンテナンスが欠かせないのはもちろん、正確な測定と安定した運用を行うために定期的な点検も重要です。本記事では、特に排水処理設備の中心的な役割を果たすPH計とそのPH電極のメンテナンスについて詳しく説明し、日常的にどのような手順が必要か、また具体的な手入れ方法について触れていきます。
水処理設備でのPH計とPH電極の役割
排水処理設備で水質を管理する際、まず最も注目すべきは「PH値」です。PHとは水の酸性・アルカリ性の度合いを示す指標で、1から14の数値で表されます。中性の水はPH7、酸性の水はそれより低い値、アルカリ性の水はそれより高い値になります。排水処理において適切なPH範囲を維持することは、排水を適正な形で環境に放流するために必要です。
PH計やその中心部品であるPH電極は、こうしたPH値の測定に欠かせない計器です。特に、PH電極はガラス製の精密な部品で、熟練の職人が一つ一つ手作りで製作しているため、その性能を維持するために繊細な扱いが求められます。
水処理設備でのPH電極の校正の手順とポイント
PH電極を使って正確なPH値を測定するためには、日常的な「校正」と「メンテナンス」が必要です。PH計の校正とは、計器が正しい値を示すように基準の液体(通常は校正用の標準液)を使って再調整する作業を指します。この作業を行うことで、計測値の誤差を最小限に抑え、常に安定したデータを得ることができます。
校正の手順とポイント
1.校正液の準備
校正には、標準液と呼ばれるPHが既知の液体を使用します。通常、PH4とPH7の標準液を用意します。これらの標準液にPH電極を浸して、基準となる値に調整します。定期的な校正を行わないと、PH計が示す値が次第にずれてしまい、誤った水処理が行われてしまう可能性があります。
2.電解液の補充
PH電極には内部に「電解液」が封入されており、外部の検水と電気的に接続するための小さな穴が開いています。この電解液は、穴を通じて少しずつ外部ににじみ出るため、定期的にKCl(塩化カリウム)溶液の補充が必要です。電解液が不足してしまうと、正確な測定ができなくなるため、忘れずに補充を行うことが大切です。
3.大気圧の維持
電極の上端にはゴムキャップが付いており、少し開放して内部を大気圧と同じに保つ必要があります。こうすることで、電解液が検水面と適切に接触し、安定した測定を実現できます。
水処理設備でのPH電極の洗浄とメンテナンス方法
排水の中には様々な化学物質や微粒子が含まれており、長期間放置しておくとPH電極のガラス面に汚れが付着します。電極が汚れてしまうと、測定値に影響が出てしまうため、定期的な洗浄が欠かせません。ここでは、PH電極の洗浄方法について具体的に説明します。
洗浄剤を使った手洗い
洗浄には専用の電極洗浄剤を使用します。ガラス電極は非常に繊細であるため、ブラシなどで強く擦ることは避け、優しく丁寧に汚れを取り除きます。洗浄剤での洗浄が終わったら、純水で十分にすすぎ、余分な洗浄成分を取り除きます。
自動洗浄装置の利用
最近では、PH電極を自動的に洗浄する装置も登場しており、手作業に比べて効率的かつ安定したメンテナンスが可能です。特に、24時間稼働が求められる排水処理設備では、こうした自動洗浄装置の導入が効果的です。
PH電極のメンテナンス頻度
PH電極のメンテナンスは、使用状況や環境によっても異なりますが、一般的には以下の頻度で行うことが推奨されています。
1.毎日の点検
電極が汚れていないか、電解液が不足していないか、キャップの状態を確認します。特に、異物が付着しやすい場合には、毎日短時間の清掃を行うと良いでしょう。
2.毎週の校正
PH計の校正は、毎週1回を目安に実施します。排水のPH値は、法規制や環境への配慮の観点からも重要であるため、週に一度は正確な測定ができるように調整します。
3.月ごとの点検と清掃
毎月、全体の点検を行い、必要に応じて電解液の補充や、電極全体の洗浄を行います。これにより、長期間安定してPH電極が使用できるようになります。
株式会社堀場製作所 検出部(比較電極、温度補償電極、複合電極)
※現在は、複合電極が主流になります。
水処理設備のPH計やPH電極のメンテナンスを怠るリスクとその影響
PH計やPH電極のメンテナンスを怠ると、排水処理プロセスが大きく影響を受ける可能性があります。例えば、測定誤差によりPH値が適切に管理されない場合、処理水が環境基準を満たさず、違法排水とみなされるリスクがあります。また、適切なPH値での処理が行われないと、設備に負担がかかり、最悪の場合はシステムの故障につながることもあります。
事例:メンテナンス不足による不適切な処理とその影響
ある企業では、PH計のメンテナンスが不十分だったため、計測値が実際よりも高く表示されるという問題が発生しました。結果として、処理水のPHが環境基準を下回る酸性度で排出され、環境への影響が懸念される事態になりました。幸い早期発見により重大な問題は避けられましたが、後からPH電極の清掃と校正を徹底するようにしたことで、再発を防ぐことができました。
水処理設備のPH計やPH電極の自動メンテナンス装置の導入と利点
近年では、PH電極の自動洗浄装置や自動校正装置も登場しており、特に24時間体制で稼働する施設ではこうした装置が非常に有用です。自動メンテナンス装置は人為的なミスを減らし、安定した水質管理を実現します。また、作業者の負担を減らすことで、他の重要な業務に集中できるメリットもあります。
まとめ
水処理設備のPH計やPH電極のメンテナンスは、日々の運用と長期的な安定において非常に重要です。校正や電解液の補充、定期的な洗浄といった作業を通じて、精度の高いPH値測定が可能となり、法規制や環境基準を満たす処理が行えます。日常のメンテナンスを徹底し、必要に応じて自動装置も活用しながら、安定した水質管理に努めてください。