水処理における窒素除去の重要性!水質改善に欠かせない除去技術
生活排水や産業廃水などに含まれるアンモニアや硝酸などの窒素化合物は、適切に処理されないまま河川や湖沼に流出すると水域の富栄養化を招きます。
生態系に深刻な影響を及ぼす可能性があるため、水処理における窒素除去は、水環境を守るために不可欠な技術となっています。
今回は、窒素除去の必要性やその基本的なプロセスについて、わかりやすく解説します。
窒素による水質汚染の基礎知識
水質汚染の一因となる窒素化合物には、さまざまな形態があります。それぞれの化合物には特徴があり、水に与える影響や除去方法が異なります。
ここでは、窒素についての基礎知識について解説します。
窒素化合物の種類
水中の窒素化合物は、有機体窒素から始まり、アンモニア性窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素へと形態が変化します。それぞれの形態で異なる特徴を持っています。
1.有機体窒素
有機体窒素は、窒素が有機化合物に結びついた形態の窒素です。動植物の遺骸、排泄物、食品廃棄物などの分解過程で発生します。家庭や産業の排水、農地からの流出が主な原因です。直接的な毒性は低いですが、分解されるとアンモニア性窒素に変化し、二次的な水質汚染を引き起こします。
有機体窒素の多い水域では、微生物の活動により酸素が消費され、溶存酸素(DO)の低下や悪臭の発生が問題となります。
2.アンモニア性窒素
アンモニア性窒素は、水中でアンモニウムイオン(NH₄⁺)またはアンモニア分子(NH₃)として存在し、有機体窒素の分解過程や、工場排水、動物の排泄物などから発生します。水中の酸素を消費する性質を持っているため、高濃度では生物に有害であり、水のpHが高いほど、より毒性の強いアンモニア分子の形態となります。
また、酸素を消費して富栄養化を促進し、水生生物の生息環境を悪化させます。
3.亜硝酸態窒素
亜硝酸態窒素は、アンモニアが硝化反応の過程で中間的に生成され、に亜硝酸イオン(NO₂⁻)として存在します。硝化反応の途中段階や、未処理の排水中に見られますが、極めて不安定で酸化されやすく、通常は硝酸態窒素に変化します。人体や生物に有害性を持ち、飲料水では厳しい基準が設けられています。
高濃度の亜硝酸態窒素は生物に毒性を持ち、特に飲料水中ではメトヘモグロビン血症(ブルーベビー症候群)の原因となることがあります。
4.硝酸態窒素
硝酸態窒素は、窒素化合物の最終酸化物であり、硝酸イオン(NO₃⁻)として存在します。農業で使用される窒素肥料の流出や、硝化反応の結果として生成され、安定した形態で毒性は低いですが、地下水への浸透や飲料水中での蓄積が問題視されています。
高濃度の硝酸態窒素は、人間や動物にとって有害であり、特に乳児が影響を受けやすいとされています。富栄養化の一因となり、藻類の異常繁殖を引き起こします。
窒素による富栄養化・赤潮、青潮の影響
富栄養化とは、水中に栄養分(主に窒素やリン)が過剰に流れ込むことで、藻類や植物プランクトンが異常繁殖する現象です。この現象は、湖や海、河川などで起こりやすく、特に農業排水や生活排水、工場排水に含まれる窒素が大きな原因となります。
窒素は植物の成長に必要な栄養素ですが、過剰に供給されると植物プランクトンや藻類が異常に増殖します。この増殖により、水中のバランスが崩れるのが問題なのです。
富栄養化が進行すると、水域でさまざまな問題が発生します。
【赤潮の発生】
赤潮は、富栄養化によって植物プランクトンや有害な藻類が異常繁殖する現象です。名前の通り、水の色が赤や茶色に変わることがあります。酸素を大量に消費し、水中の生物が窒息死するだけでなく、一部の藻類は毒素を生成し、魚介類や人間に悪影響を及ぼすため、水産業に甚大な被害を与えます。
【青潮の発生】
青潮は、海底付近の酸素が極端に少なくなる(貧酸素化)ことで発生します。これは、富栄養化が原因で、海底で有機物が分解される際に大量の酸素が消費されるためです。海水が青白く濁り、酸素不足で魚や貝などが大量に死んでしまいます。
窒素は、植物や藻類が成長するために必要な栄養素で、リンとともに富栄養化を引き起こす主要因となります。
窒素が多い水域では、藻類やプランクトンが次々と成長するため、結果として酸素不足を引き起こし、藻類の異常増殖により水が臭くなったり、不快な味が発生したりします。
水処理における窒素除去の重要性
窒素は自然界に存在する重要な元素ですが、排水中に過剰に含まれると、環境や人間生活に深刻な影響を及ぼします。
上記で説明したような、富栄養化による赤潮、青潮のほか、水中の酸素不足は、魚やエビ、カニなどの水生生物にストレスを与え、死滅につながります。
結果として生態系全体のバランスが崩れ、自然の調和が乱れます。
また、人体への影響としては、硝酸態窒素(NO₃⁻)が地下水に浸透すると、井戸水などの飲料水を汚染します。高濃度の硝酸態窒素を摂取すると、特に乳幼児がメトヘモグロビン血症(ブルーベビー症候群)を引き起こす危険があります。
窒素除去は、私たちの生活環境を守るために欠かせない技術なのです。
窒素除去の基本プロセス
水中の窒素を除去する方法として、生物学的窒素除去法と物理化学的窒素除去法があります。基本的に生物処理ですべての形態の窒素は処理が出来ます。
生物学的窒素除去法
生物学的窒素除去法は、微生物の働きを利用して水中の窒素を取り除く方法です。このプロセスは自然界の窒素循環を模倣しており、比較的環境に優しく、広く使われています。
硝化反応と脱窒反応がその基本プロセスとなります。
・ステップ1:硝化反応(アンモニアを硝酸に変える)
アンモニア(NH₄⁺)は、「アンモニア酸化菌(AOB)」という微生物によって亜硝酸(NO₂⁻)に変化します。亜硝酸はさらに「亜硝酸酸化菌(NOB)」によって硝酸(NO₃⁻)に酸化されます。
・ステップ2:脱窒反応(硝酸を窒素ガスに変える)
脱窒反応では、硝化反応でできた硝酸(NO₃⁻)や亜硝酸(NO₂⁻)が、微生物の働きによって窒素ガス(N₂)に還元されます。窒素ガスは無害で、自然界に放出されます。「脱窒菌」と呼ばれる微生物が硝酸や亜硝酸を窒素ガスに還元します。このプロセスには酸素が不要で、酸素の少ない環境(嫌気性環境)で行われます。
生物学的窒素除去では、硝化と脱窒を効率的に組み合わせる必要があります。そのため、施設内で環境条件を切り替える設計が行われます。微生物を利用するため、薬品の使用が少なく、運転コストが比較的安いのがメリットです。
物理化学的窒素除去法
物理化学的窒素除去法は、生物学的処理が困難な場合や高濃度の窒素を含む排水処理に適しています。いくつか、例をご紹介します。
1.イオン交換法
イオン交換樹脂という特殊な材料が、水中の硝酸態窒素(NO₃⁻)やアンモニウムイオン(NH₄⁺)と置き換わります。
2.化学沈殿法
窒素化合物に化学薬品を加えることで、反応により固形化します。生成された固体は沈殿し、ろ過や沈降で取り除かれます。
3.ストリッピング法
水中のアンモニアを気体として取り除く方法です。水中のアンモニウムイオン(NH₄⁺)を高pH(アルカリ性)に調整し、アンモニアガス(NH₃)に変化させます。アンモニアガスは、エアーストリッピングという操作で水中から空気中に取り出されます。
4.化学酸化法
強力な酸化剤を使って窒素化合物を分解・除去する方法です。
スイレイで多く取り扱っているのは、亜鉛めっきの塩化アンモン浴の排水処理です。アンモニア性窒素が含まれた排水を処理するには、次亜塩素酸ソーダなどの酸化剤を添加し、アンモニアを窒素ガスに酸化分解します。
5.生物処理法
微生物を利用し、窒素除去する方法です。
窒素除去に影響を与える要因
窒素除去の効率は、様々な要因に大きく影響されます。以下が主な要因です。
・水温、pH、DO
・有機物濃度、窒素濃度
・微生物相
たとえば水温は、微生物の活性に直接影響を与えます。一般的に、中温域(20~30℃)で微生物の活性は最も高くなります。低温では酵素反応が遅くなり、高温では酵素が変性して活性を失う可能性があります。
また、pHは、微生物の生育や酵素反応に大きな影響を与えます。硝化菌は中性付近で最も活性を示し、酸性やアルカリ性では活性は低下しますし、硝化菌、脱窒菌など、様々な種類の微生物が窒素除去に関与しています。これらの微生物のバランスが崩れると、窒素除去効率が低下する可能性があります。
窒素除去は、これらの要因が複雑に絡み合って起こる現象です。最適な窒素除去を行うためには、各要因を適切に制御し、微生物の働きを最大限に引き出すことが重要です。
まとめ
水処理における窒素除去は、環境を守るために非常に重要な工程です。適切な窒素管理を行うことで、水域の富栄養化を防ぎ、生態系を保全し、さらに私たちの生活に必要な水資源を安全に利用し続けることが可能になります。
今回は、生物学的手法、物理化学的手法のプロセスをご紹介しました。窒素除去では、水温、pHなど様々な要因が影響を与えることもありますので、これらの要因を適切にコントロールすることで、微生物の働きを最大限に引き出し、効率的な窒素除去を実現することができます。